京都地方裁判所 平成4年(ワ)160号 判決 1993年2月17日
主文
一 原告らの各請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは各自、原告松居幸三及び同並川昭二に対し各金三七〇万三七〇三円、原告中村繁子に対し金一八五万一八五一円、原告中村博一及び同中村京子に対し各金九二万五九二五円並びにこれに対する被告松居敬二、同松居弘泰及び同松居久之助は平成四年二月二〇日から、被告島本弘子は同月二一日から、被告山田悠喜子及び同山田護は同月二二日から、各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 訴外亡松居庄七(以下「亡庄七」という。)は、その生前、岐阜県大垣市西外側町二丁目四七番地所在の土地(以下「本件土地」という。ただし、当時は換地処分前であった。)を所有していたが、土地区画整理法に基づいて本件土地を大垣市に収用された。
2 亡庄七は、昭和三〇年九月二四日に死亡した。
3 原告ら、中村忠雄及び被告らは、いずれも亡庄七の共同相続人ないし相続人であり、亡庄七との身分関係並びに原告らおよび被告らの相続分は別紙一覧表記載のとおりである。
4 大垣市は、昭和五一年二月二七日土地区画整理登記令二条に基づいて、被収用者である亡庄七の相続人に対して本件土地につき代位による所有権保存登記(以下「本件登記」という。)をなしたが、この際被告松居敬二、同松居久之助、同島本弘子、訴外亡松居修造、訴外亡山田静子のみに対して行い、本来相続人である原告らを脱漏させてしまった。なお、登記上の持分は、被告松居敬二が九分の三、同松居久之助及び同島本弘子が各九分の一、訴外亡松居修造及び同山田静子が各九分の二とされた。
その後、訴外亡松居修造は死亡して被告松居弘泰がこれを相続し、また訴外亡山田静子が死亡して被告山田護及び同山田悠喜子がこれを相続し、それぞれその旨の登記が経由されている。
5(一) 被告松居敬二は、同被告を除く他の被告らについては同人が代理して、平成三年三月一九日、本件土地を訴外池田哲及び同池田眞知子に対して代金五〇〇二万二〇〇〇円で売却した。
(二) 被告らは、右売買代金を被告らのみの間で、登記上の持分の割合に応じて分配取得した。
6 原告らは、もともと亡庄七の相続人として別紙一覧表記載のとおり法定相続分に従って本件土地に対し持分権を有していたが、被告らによる本件土地の売却とその売買代金の分配取得によって右持分権を失った。
原告らは、本件土地につき合計二七分の六の持分割合を有していたのであるから、前記売却代金のうち少なくとも一一一一万一一一一円は原告らが各持分割合に応じて分配を受けるべきものであったところ、法律上の原因がないのに被告らはこれも被告らの間で分配してしまった。すなわち、被告らは、原告らの損失においてすくなくとも右金員を利得したものというべきである。
7 中村忠雄は、本訴提起後の平成四年七月二六日に死亡し、妻である原告中村繁子(相続分二分の一)、長男である同中村博一(相続分四分の一)及び長女である同中村京子(相続分四分の一)が法定相続分に従ってその財産上の地位を承継した。
8 よって、原告らは、不当利得返還請求権に基づき、被告らに対し連帯して、原告松居幸三及び同並川昭二につき各金三七〇万三七〇三円、原告中村繁子につき一八五万一八五一円、原告中村博一及び同中村京子につき各金九二万五九二五円並びにこれに対する弁済期が経過した後である各訴状送達の日の翌日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は知らない。
2 同2の事実は認める。
3 同3の事実中、亡庄七と被告らとの身分関係は認め、原告ら及び被告らの法定相続分に関する点は否認し、その余は知らない。
4 同4の事実は認める。
5 同5(一)の事実は認めるが、5(二)の事実は知らない。
6 同6の事実は否認し、主張は争う。
7 同7の事実は認める。
三 抗弁
1 原告らは、本訴請求を法形式上は不当利得返還請求権の行使として構成しているけれども、その内容は、被告らによってその相続権を侵害され、原告らも持分権を有していた相続財産を不当に処分された旨主張しているのであるから、これは実質的には相続回復請求権の行使であるというべきである。
従って、本件においては、相続回復請求権に関する民法八八四条が適用ないし類推適用されるべきである。
2(一) 亡庄七は、昭和三〇年九月二四日死亡し、亡庄七について相続が開始した。右の相続開始から昭和五〇年九月二三日の経過をもって二〇年が経過した。
(二) 被告らは、平成四年五月一二日の本件口頭弁論期日において、民法八八四条に定める時効を援用した。
よって、仮に、原告らが被告らに対し、その主張のような不当利得返還請求権を有していたとしても、時効が完成していてその権利は消滅している。
四 抗弁に対する認否
抗弁2(一)の事実は認める。
五 再抗弁
1 民法八八四条の適用除外
(一) 共同相続人間にも民法八八四条の適用を肯定した判例(最高裁昭和五三年一二月二〇日大法廷判決)によっても、相続権を侵害することにつき悪意又は過失ある者については同条の適用が否定されているところ、本件では被告らに以下のような事情が存するので、被告らについては同条の適用ないし類推適用は否定されるべきである。
(二) 原告松居幸三は、平成三年一、二月ころ、被告島本弘子から、本件土地が亡庄七の遺産に属すること、被告松居敬二が本件土地を売却しようとしていることを聞かされ、原告らが登記名義人になっておらず、相続権を侵害されていることを初めて知った。そこで、原告松居幸三は、直ちに、被告松居敬二よりの依頼に基づき本件土地に関し移転登記手続の書類作成等を行っていた大井司法書士に対して手続の中止を求め、原告らの権利行使の意思を伝えた。
更に、原告らは、被告松居敬二に対し、平成三年三月一五日付内容証明郵便をもって、原告らが亡庄七の共同相続人であることを通知し、本件土地についての相続権の主張と分割協議の申入れを行った。しかるに、被告らは、原告らの右申入を無視して、右通知が到達した直後である同月一九日、本件土地を売却処分した。
2 相続回復請求権の消滅時効の起算点について
仮に、右1の主張が認められないとしても、消滅時効の起算点については次のように解すべきである。
(一) 二〇年の消滅時効の起算点について
亡庄七は、昭和三〇年九月二四日に死亡しているが、その当時本件土地は大垣市に収用されたままで、昭和五一年二月二七日に本件登記がなされるまでは、原告らは本件土地が相続財産として存在することを知らなかった。このように相続権侵害が現実化しておらず、相続権の主張が抽象的にもなしえない場合には、二〇年の消滅時効の起算点を一律に相続開始時とするのは不当である。
よって、二〇年の時効の起算点は、本件登記がなされ、現実に相続権の侵害が開始された昭和五一年二月二七日とされるべきである。
(二) 五年の消滅時効の起算点について
再抗弁1(二)記載のとおり、原告松居幸三は平成三年一、二月ころ、初めて本件土地が亡庄七の相続財産に属すること、原告らの相続権が侵害されていることを初めて知ったのであるから、五年の消滅時効の起算点は平成三年一、二月ころとされるべきである。
3 信義則違反
以上の主張がすべて認められないとしても、以下の事情の存する本件においては、被告らが相続回復請求権の時効消滅を主張して原告らの権利を否定することは、信義則に反し許されない。
(一) 本件土地について本件登記がなされ、原告らの相続権が現実に侵害されたのは、亡庄七が死亡してその相続が開始した昭和三〇年九月二四日から二〇年以上を経過した後である昭和五一年二月二七日であって、その間は原告らが相続回復請求権を行使し得る可能性は抽象的にもなかったのであり、本件においてはかかる特殊事情を考慮する必要がある。
(二) 再抗弁1(二)に同じ。
(三) 被告島本弘子は、被告松居敬二に対し、本件土地売却処分の後、原告らに対しても売買代金のうちからその割当分を支払ってやって欲しい旨申し出たが、被告松居敬二らはこれを無視して、被告らのみで売買代金を分配した。
(四) 被告らは、右の経緯で原告らの相続権を意図的に侵害した上、本訴においては相続回復請求権の消滅時効を援用するに至った。
六 再抗弁に対する認否
1 再抗弁1(一)の主張は争う。同1(二)の事実中、平成三年三月一六日原告らより被告松居敬二に対し、本件土地につき相続権を主張し、分割協議を求める通知が到達したことは認めるが、その余の事実は知らない。
2 同2(一)の事実は認めるが、(二)の事実は知らない。
3 同3の主張は争う。
第三 証拠(省略)
理由
一 不当利得の成否について
1 請求原因2、同3のうち亡庄七と被告らとの身分関係、同4、同5(一)及び同7の各事実は、各当事者間に争いがない。
2 成立に争いのない甲第一、第三ないし第四八号証、乙第二号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証、原告松居幸三本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、亡庄七は生前本件土地(ただし、換地処分前のもの)を所有していたが、土地区画整理法に基づいて右土地を収用されたこと、大垣市は昭和五一年に本件土地につき換地処分を行うこととなり、同年二月二七日職権で被告松居敬二らのために代位登記をしたが、その際、本来は持分権を有する原告らが登記名義人から脱漏してしまったこと、亡庄七と原告らとの身分関係及び共同相続人の各相続分は別紙一覧表記載のとおりであること、被告らは平成三年三月一〇日に本件土地を売却処分してしまったこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
なお、被告らが本件土地の売却代金をどのように分配したのかについては、被告らにおいて明らかにしないのであるが、成立に争いのない乙第三号証によれば、被告島本弘子は本件土地の売却代金のうちから諸経費を差引かれたうえで、五三一万二六〇〇円を受け取ったことが認められるところ、右金額は本件土地売却代金の九分の一を僅かに下回るものであり、同被告の本件土地に対する登記上の持分が九分の一であったことを併せ考えると、同被告に対しては登記上の持分に応じて売買代金が分配されたものと認められるから、他の被告らに関してもそれぞれの登記上の持分に応じて本件土地の売却代金が分配されたものと推認するのが相当であり、右推認を覆すに足りる証拠はない。
3 右認定を踏まえて検討すると、原告らは本来亡庄七の相続人として本件土地につき別紙記載のとおりの持分権を有していたところ、被告らが平成三年三月一〇日訴外池田眞知子らに対し本件土地を代金五〇〇二万二〇〇〇円で売却し、その代金を被告らのみで分配してしまったため、本来有していた持分権を失ってしまったのである。そうすると、被告らは全体として、原告らの法定相続分の合計(二七分の六)をその損失において、分配の原資とすることにより利得したものと評価すべきであるが、その利得額は全体で原告ら主張の一一一一万一一一一円を下ることはない(計算上は一一一一万六〇〇〇円となる。)。
ただ、原告らの損失と被告らの利得との関係について全体としては右のようにいえるとしても、個々の原告と個々の被告それぞれの損失と利得との直接の因果関係に関しては、本件全証拠によっても必ずしも明らかとはいえないのであるが、この点はしばらくおき、まず被告ら主張に係る抗弁及び原告ら主張に係る再抗弁の点から判断することとする。
二 抗弁について
抗弁2(一)(亡庄七の死亡日時及び二〇年の期間経過)の事実は各当事者間に争いがなく、同2(二)の事実(被告らが本訴において民法八八四条に定める二〇年の消滅時効を援用したこと)は訴訟上顕著である。
そして、原告らの本訴請求は、不当利得の返還を求めるものであるけれども、その主張内容は、原告らも持分権を有していた相続財産を被告らによって不当に処分されて、その相続権を侵害されたというものなのであるから、これは実質的に相続回復請求権の行使とみるのが相当であって、民法八八四条の適用ないし類推適用があるものといわなければならない。
三 再抗弁について
1 そこで、まず再抗弁1について検討する。
共同相続人のうちの数人が相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分について他の共同相続人の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分であると称してこれを占有・管理し、他の共同相続人の相続権を侵害している場合については、民法八八四条の適用を特に否定すべき理由はないが、右共同相続人のうちの数人において、自己の本来の持分を超える部分が他の共同相続人の持分に属することを知りながら、又は当該部分についても自己に相続権ありと信ぜられるべき合理的事由がないにもかかわらず、その部分もまた自己の持分に属するものであると称してこれを占有・管理している場合には、同条の適用はなく、侵害者である相続人は同条所定の時効を援用して自己に対する右侵害の排除の請求を拒むことはできないと解すべき(最判昭和五三年一二月二〇日民集三二巻九号一六七四頁参照)ことは、原告ら主張のとおりである。
ところで、侵害者側の相続人が右侵害部分が他の共同相続人の持分に属することを知っていたか否か、あるいは当該部分についても自己に相続持分があるものと信ぜらるべき合理的事由が存したか否かの判断の基準時を何時とすべきかは一つの問題であるが、これについては事柄の性質上相続権侵害行為がなされた時点を基準として判断すべきものと解するのが相当である。これを本件についてみると、原告らの相続権の侵害がなされたのは、先にみたとおり本件土地に関し代位による登記が行われた時ということになるが、この時点において被告らが右侵害部分が原告らの持分に属することを知っていたこと又は侵害部分についても被告らに相続持分があるものと信ぜられるべき合理的事由がなかったとの事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって本件においては被告らにおいて積極的に侵害行為をしたものではなく大垣市の誤った代位登記により結果的に原告らの持分を侵害することとなった経緯や亡庄七に関しては極めて複雑な相続関係を生じていたことなどに鑑みると、被告らにはこの点に関する悪意ないし過失はなかったものと推認されるのである。
そうとすると、その余の点について検討するまでもなく、再抗弁1は理由がない。
2 次に、再抗弁2について検討する。
原告らは、本件にあっては相続権侵害の事実が生じたのは相続開始から二〇年を経過した後であり、その間にはそもそも相続権侵害がなかった以上原告らにおいて相続回復請求をなしうる余地もなかったのであるから、二〇年の消滅時効の起算点を一般原則どおり「相続開始の時」とするのは不当であり、「相続権が侵害された時」とすべきである旨主張する。
しかしながら、民法八八四条は二〇年の消滅時効の起算点につき明文をもって「相続開始の時」と定めているのであって、原告らの主張を採用することは右文理に照して困難であるばかりでなく、そもそも同条が二〇年の消滅時効を定めたのは、相続に関する紛争は二〇年もの長年月を経たときは時効で相続回復の主張を制限して、相続に伴う法律関係を終局的に確定させるのが相当であるとの趣旨に出たものと解されるところ、仮に相続権侵害が相続開始後二〇年を経た後に生じた場合には時効の起算点を侵害行為の時とするならば、結果的に相続に関する紛争が二〇年以上の長期にわたって争われることを類型的に認めることとなって、同条が二〇年の消滅時効を定めた趣旨を没却することにならざるをえないのである(最大判昭和二三年一一月六日民集二巻一二号三九七頁参照)。
従って、二〇年の消滅時効の起算点は、相続権侵害が相続開始後二〇年の期間内に行われたか否かにかかわらず、一律に「相続開始の時」と解すべきものであるから、再抗弁2(一)は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
また、原告らは、原告らが相続権侵害の事実を知ったときから五年の消滅時効が進行するとすべきである旨主張するけれども、右に述べたとおり民法八八四条は、相続に関する紛争は相続開始時から二〇年で打切ることが必要であるとの趣旨で二〇年の時効を定めたのであるから、この時効が完成した以上は、もはや五年の時効は問題となる余地がないと解すべきであって、再抗弁2(二)も理由がない。
3 次に、再抗弁3について検討する。
被告らが被告松居敬二を中心として、平成三年三月に本件土地を売却処分したうえ、その売得金を被告らのみで分配したことは当事者間に争いがないが、これに関連する前後の事情として、前記当事者間に争いのない事実、成立に争いのない甲第四九ないし五二号証、前掲乙第一ないし第三号証、原告松居幸三本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すると、平成三年二月上旬被告島本弘子は被告松居敬二から本件土地売却に係る委任状への署名、捺印を求める手紙を受取り、初めて亡庄七の遺産として本件土地があることを知ったのであるが、被告島本弘子はその処置について相談するために、母も共通であることから特に親しくしている原告松居幸三に連絡したこと、同原告も右連絡により初めて本件土地の存在及び亡庄七の相続人である自分と原告並川昭二及び中村忠雄が本件土地の登記簿上の名義人から除外されていることを知ったこと、そこで原告松居幸三は本件土地の売却手続に関与していた大井司法書士のところへ電話して、本件土地については登記簿上の権利者以外にも原告らが持分権を有している旨伝えたこと、しかし被告らと訴外池田眞知子らとの本件土地売買契約は同年三月一〇日に締結されたこと、これと前後して原告らの委任に基づいて原告ら代理人において大井司法書士に対して売買の中止を求めるとともに、被告松居敬二に対し同年三月一五日付で原告らの持分を主張する通知をなし、右通知は同月一六日に被告松居敬二のもとに到達したけれども、同被告は予定どおり本件土地に関する売買契約の履行を行ったことが認められ、右認定に反する証拠はない。
右一連の経過をみると、原告らから本件土地の持分権の主張を受けた被告松居敬二の対応にはやや不誠実な面があり、原告らにおいて不満の感情を持つに至ったことも分らないではないのであるが、他方、右に認定したとおり原告松居幸三が当初電話連絡をした相手は被告松居敬二自身でなく司法書士であったため、この時点で原告らの申入の趣旨が正確に被告側に伝わったかどうかは明らかでないこと、また原告ら代理人からの内容証明郵便が被告松居敬二に届いたのは平成三年三月一六日であるところ、原告らは甲第一号証(登記簿謄本)の記載を根拠に本件土地の売買契約は同月一九日であったから売却処分を中止すべきであったとも主張するが、前掲乙第一号証によれば被告らと訴外池田眞知子らとの売買契約は同月一〇日に既に締結されており、手付金五〇〇万円の授受もその時点でなされていたものと認められるのであって、被告松居敬二が右内容証明郵便を受取ったからといって売買契約を中止するのは困難であったと言わざるを得ないこと、更に、被告松居敬二以外のその余の被告らについて考えると、本件土地売却や原告側との対応はすべて被告松居敬二が行っていたために、前記認定の事情や経緯をその余の被告らは殆ど知らないものと推認されることなどに照して考えると、前記認定の事実をもって被告らの消滅時効援用を信義則違反と評価することは未だできないというべきである。
結局、再抗弁3も理由がないに帰する。
なお、本件における特殊性は亡庄七について相続が開始してから二〇年以上経過した後に相続権の侵害(大垣市による代位登記)がなされている点であって、そのため原告らとしては本来許された期間内には相続回復請求権を行使することが全く不可能だったわけで、この点が根本的な問題であるが、これについては事実関係いかんによって、代位登記を行った主体等に対する何等かの請求が可能であるかどうかという領域において処理されるべきものである。
四 以上の次第であって、原告らの被告らに対する本訴各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
別紙
一覧表
当事者 亡松居庄七との身分関係 法定相続分
原告 松居幸三 非嫡出子 二七分の二
並川昭二 右同 右同
中村繁子 非嫡出子の相続人(配偶者) 二七分の一
中村博一 非嫡出子の相続人(嫡出子) 五四分の一
中村京子 右同 右同
被告 山田護 嫡出子の相続人(嫡出子) 二七分の二
山田悠喜子 右同 右同
松居弘泰 右同 一三五分の一
松居敬二 右同・配偶者の相続人(養子) 一三五分の四六
松居久之助 非嫡出子 二七分の二
島本弘子 右同 右同